郵便局で耳にした“謎解き”という言葉
先輩たちがよく口にしていた「住所は謎解きみたいだ」という言葉。毎日差し出される膨大な郵便物や小包の中には、読みやすく整った字もあれば、達筆すぎて逆に難解な字もあります。人によってはクセが強く、慣れていても判別に苦労することは少なくありません。
そんな「文字との戦い」は、局員にとって日常の中で立ちはだかる小さな壁でした。
局内で始まる“文字読解大会”
判別できない住所の郵便物は、一旦仕分けから外され、専用の確認ボックスへ。
ここからが本番です。まず担当者が「これ3に見えるけど……」と声を上げると、ベテランと若手が協力し合って推理を始めます。難航している様子を見かねると近くの同僚も「いや、8に見える」「私は1じゃないかと思う」と、次々に意見を出し合います。
解決できない場合はさらに別の職員にも回し、局内全体で挑む“チーム戦”になることもしばしばありました。
判明した答えに思わず納得
ある日届いた小包も、その読解大会の題材となりました。
郵便番号で地域までは特定できたものの、肝心の部屋番号が「3」にも「8」にも、「1」にも「7」にも見えてしまい、どうしても結論が出ません。最終的に、住所検索システムやネットで候補を確認した上で差出人へ直接電話をかけることに。
結果は「B201号室」。聞いた瞬間、全員が「あ〜! 言われてみれば、確かにそう読めるね!」と納得の表情を浮かべ、緊張していた空気が一気に和らぎました。
最後に頼れるのは人の力
この出来事をきっかけに、改めて「住所は謎解き」という言葉の意味を実感しました。
郵便番号という制度があり、解読するシステムも整っている今の時代。
それでも尚、最後に正解へと導くのは人の目と洞察力です。文字を読み解く力は、便利な時代になっても郵便局員にとって欠かせないスキルであり、日々の仕事を支える大切な“人の力”そのものでした。
【体験者:30代・郵便局員、回答時期:2011年6月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:Tomoyo.H
郵便局や年金機構、医療法人の管理部門を歴任。これらを通して、働く人の労務問題や社会問題に直面。様々な境遇の人の話を聞くうちに、そこから「自分の言葉で誰かの人生にいいきっかけをもたらせたら」と、執筆活動をスタート。得意分野は、健康や自然食、アウトドア。