父を見送った日
父は数年にわたる闘病の末、みんなに見守られながら自宅で静かに息を引き取りました。釣りや山歩き、バイク……色んな事を教えてくれた父。覚悟していたはずなのに、実際にその瞬間が訪れると、胸を引き裂かれるように辛いものでした。
自宅で亡くなったため、救急車だけでなく警察も入り、形式的な手続きの後、夜の11時を過ぎてから父は帰ってきました。
夜更けの団らん
布団に横たわる父を囲み、母や妹、甥っ子たちと思い出話をしました。笑い声と涙が入り混じる、不思議な時間でした。
やがて「お父さんと一緒に眠る」と言う母を残し、私たちはそれぞれの寝室へ。蒸し暑い夜で、どこか胸騒ぎがしてなかなか寝付けませんでした。
闇に浮かぶ小さな光
ふと目を開けると、暗闇の中にぼんやりとした光が漂っていました。最初は蛍が入り込んだのかと思いましたが、蛍のように点滅はなく、ただ淡く光り続けています。
近づいてきたその光を手で払おうとしても、空気を切るだけで何の感触もありません。光はゆっくりと部屋を漂い、私の周りを何度も円を描くように回った後、すっと天井の方へと消えていったのです。
背筋がぞくりとするのに、不思議と恐怖一色ではなく、どこか見守られているような感覚がありました。
母の証言
翌朝、母にその出来事を話すと、驚いた顔で「私も見た」と答えました。電気を消して間もなく、小さな光の玉が母の周りを飛び回り、そのまま階段を登るように二階へ上がって行ったというのです。
それは、ちょうど私が光を見た時間帯と重なっていました。母の話を聞いた瞬間、父が家の中を巡っていたのだと思わずにはいられませんでした。
別れを告げる光
妹は眠っていて気づかなかったようですが、母が私と同じ体験をしたことは偶然とは思えません。あの光は、父が最後に家族を見守り、別れを告げるために現れたのかもしれません。
悲しみの中に忍び寄った小さな怪異は、確かに私たちの心に父の存在を刻みつけたのです。
【体験者:40代・男性会社員、回答時期:2025年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:hiroko.S
4人を育てるママライター。20年以上、接客業に従事。離婚→シングルマザーからの再婚を経験し、ステップファミリーを築く。その経験を生かして、女性の人生の力になりたいと、ライター活動を開始。現在は、同業者や同世代の女性などにインタビューし、リアルな声を日々収集。接客業にまつわる話・結婚離婚、恋愛、スピリチュアルをテーマにコラムを執筆中。