旅館や民宿で時々見かける宿泊者の寄せ書きノート。実際に記入したことはなくても、手に取ってみたことがある人は少なくないのではないでしょうか? 今回は、そんな寄せ書きノートにまつわるエピソードです。
スノボをしに民宿へ
今から15年ほど前、当時大学生だった私は友人とスノボ旅行に行きました。そして朝から晩までスノボを楽しみ、民宿に戻りました。
部屋で布団を敷いていると、友人が押し入れから一冊のノートを見つけたのです。
旅の思い出がつまったノート
それは宿泊客が感想やコメントを書く、いわゆる寄せ書きノートでした。「〇〇大好き!」「アイラブユー」など恋愛系の書き込みも多く、盛り上がりながら読んでいました。
すると、あるページに小学生くらいの子供の字で書いた相合傘とアニメ調の手をつないだ男女のイラストが。
「小学生かな? 相合傘久しぶりに見たね~!」と、さらに盛り上がりながら次のページをめくります。
「ゆるさないゆるさないゆるさない」
同じ文字調で、見開きページをびっしりと埋めつくほどの「ゆるさない」という言葉。そして、アニメ調の男女がこちらを見ている絵が強い筆圧で塗りつぶされています。
私たちは悲鳴をあげて、思わずノートを放り投げてしまいました。
眠れない夜
フロントにノートを持っていきたかったのですが、恐怖からそのノートを再び手に取ることができず、友人と肩を寄せ合いながら布団にくるまり朝を待ちました。
そして夜が明け、フロントに持って行こうとノートを探したのですが、ないのです。押し入れやテレビの裏など、隈なく探してもどうしても見つかりません。
仕方なく、ノートなしでフロントに行き、昨晩の出来事を伝えました。
すると、フロントの方は不思議そうな顔をして一言。
「寄せ書きノートは当宿には存在しません」
何か隠している素振りはなく、私たちは恐怖で顔を見合わせました。
「気味が悪いので部屋を変えたい」とお願いしたのですが、空きがなく断念。あの部屋に戻ることもできず、最終的に親に迎えに来てもらい、なんとか帰宅しました。
今も残る謎
それ以降、特に怪奇現象が起こることもなく、日々を過ごしています。久しぶりにこの出来事を思い出し、記憶を頼りに宿や周辺の事件、怖い話などを検索してみましたが、該当する記事はひとつもありませんでした。そしてなぜか、宿を見つけることすらできません。
あの日私が見たノートは一体なんだったのでしょうか……。
【体験者:30代・会社員、回答時期:2025年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:桜井 ひなの
大学卒業後、金融機関に勤務した後は、結婚を機にアメリカに移住。ベビーシッター、ペットシッター、日本語講師、ワックス脱毛サロンなど主に接客領域で多用な仕事を経験。現地での出産・育児を経て現在は三児の母として育児に奮闘しながら、執筆活動を行う。海外での仕事、出産、育児の体験。様々な文化・価値観が交錯する米国での経験を糧に、今を生きる女性へのアドバイスとなる記事を執筆中。日本でもサロンに勤務しており、日々接客する中で情報リサーチ中。