定期薬の変更
私が勤める調剤薬局に、月に1回定期薬を受け取りに来るAさんという患者さんがいます。
ある日Aさんから処方せんを受け取ると、そこに書かれている薬の名前がいつもと違っていました。どうやら医師と相談して、新しい薬を試すことになったようです。
合わなかった薬、どうするか問題
それから数日後、再び薬局を訪れたAさん。
「このあいだ変更になった薬、私には合わなかったよ。ちょっとしか飲んでないから残りは返す。返金してくれないか?」と言って、前回のお薬を私に差し出してきました。
実際、こういった相談は多く受けます。しかし、原則としてお渡ししたお薬の返金・返品はできません。品質や保険上の問題があるし、法律でも決まっているルールです。
Aさんにその旨を説明し、「もう飲まれることがないのであれば、こちらで処分はできますよ」とお伝えしましたが「ちょっとしか飲んでないんだ。あとは触ってもないのに駄目なのか?」とAさんは納得できない様子で、押し問答に。
助け舟、現る
そんなやりとりを続けていると、見かねた別の患者さんが間に入ってきました。薬局の常連である木村さん(仮名)です。
話を聞くうちに、Aさんは地元で酒店を営む店主で、木村さんがそのお得意様だと分かりました。木村さんはAさんを諭すように、こう言いました。
「Aさん。今あんたがやっていることは、私があんたのところで缶ビールをケース買いして、『数本飲んで合わなかったから返金しろ』って言ってるようなもんだよ。そんなんじゃ商売あがったりだろう ? ここは引き下がったほうが格好いいよ」
木村さんからの言葉にハッとしたAさん。思い直した様子で、病院で別のお薬を処方してもらうことになりました。
「もったいない」を減らすには
身近な例え話でAさんを諭してくれた木村さんには感謝しています。
仕方がないこととはいえ、飲まれないまま処分されていくお薬たちの存在は、薬局スタッフとしても心が痛むもの。自分に合うか不安な場合、短い日数でお試しできないか、医師に相談してみることをおすすめします。
【体験者:30代・筆者、回答時期:2025年7月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:S.Takechi
調剤薬局に10年以上勤務。また小売業での接客職も経験。それらを通じて、多くの人の喜怒哀楽に触れ、そのコラム執筆からライター活動をスタート。現在は、様々な市井の人にインタビューし、情報を収集。リアルな実体験をもとにしたコラムを執筆中。