不完全な送り状
私が働くドラッグストアに、とある中年の女性客が来店してきた時の話です。ドラッグストアでは荷物の配送サービスも行っているため、女性は店内で購入したギフト商品への熨斗紙と一緒に「これ、送ってちょうだい」と依頼してきました。
送り状は基本的にお客様自身で記入いただくことになっているため女性に筆記具を添えて渡すと、数分後には記入を終えて戻ってきました。けれど、その内容を見てビックリ。送り先の住所は番地や部屋番号もなく、肝心のご自身の名前も書かれていないのです。貼った熨斗紙にも名前はなく、これでは誰が誰に送ろうとしているのか分かりません。
念のための確認
「すみませんが、送り先のご住所と送り主様のお名前をきちんとご記入いただけますか?」と丁寧にお願いしたのですが、女性は「これで大丈夫だから!」と譲りません。心配だった私は、配送業者に電話して確認を取ることに。ところが、電話中にもかかわらず、女性は送料だけを置いてそのまま帰ってしまったのです。
唖然としつつも業者に確認したところ、「住所が正確でないと、お預かりできません」との返答。幸いにも、送り状には女性の電話番号が記載されていたため、仕方なくその番号に連絡すると、電話に出た女性は「なんで送れないのよ!」と苛立ち気味に言い放ち、「分かったわよ。また行く」と一方的に電話を切られてしまいました。
思わぬ救世主
数時間後、女性は再び来店。送り状を書き直す気配もなくブツブツと文句を言っていると、ちょうど配送業者の男性スタッフが集荷にやってきました。女性の送り状を見るなり、「これじゃ届きませんよ」ときっぱり。そして続けてこう言いました。
「私たちは毎日多くの荷物を扱っています。正確にお届けするためには、正しい情報が必要なんです。お客様のご協力があってこそ成り立つサービスですから」
その一言に女性は観念したように黙り込み、無言で送り状を書き直して帰っていきました。
小さな協力が大きな信頼に
送り状の記入は、たった数分のこと。けれど、そのひと手間を惜しむことで、誰かの仕事が滞ったり、受け取る相手が困ったりしてしまうかもしれません。
「私はお客だから」ではなく、「お客だからこそ」サービスを提供してくれる人への思いやりを忘れない。大切なことを一言で気づかせてくれた、配送スタッフさんに感謝した出来事でした。
【体験者:40代・女性パート、回答時期:2025年7月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:hiroko.S
4人を育てるママライター。20年以上、接客業に従事。離婚→シングルマザーからの再婚を経験し、ステップファミリーを築く。その経験を生かして、女性の人生の力になりたいと、ライター活動を開始。現在は、同業者や同世代の女性などにインタビューし、リアルな声を日々収集。接客業にまつわる話・結婚離婚、恋愛、スピリチュアルをテーマにコラムを執筆中。