楽しみだった癒しのひととき
シングルマザーだった頃、私のささやかな楽しみは、幼い2人の息子との日帰り温泉。その日は少し遠出して、ホテルに併設された温泉に行くことにしました。受付を済ませて大浴場へ行くと、洗い場は混み合っていて、空いている場所が見つかりません。戸惑っていると、近くにいた年配女性が「あそこの奥、空いてるよ」と親切に声をかけてくれました。
タオルが入った洗面器
行ってみると、確かに洗い場が1か所だけ空いています。けれど、その場所にはタオルが入った洗面器が置かれてあり、「この洗い場、使っていいのかな?」と一瞬迷いました。その時、隣にいた若い女性が「使っても良いんじゃないですか? 誰もいないし」と言ってくれたので、ありがたく使わせてもらうことに。私は子どもたちを急いで洗い始めました。
突然の割り込み
あとは泡を流すだけという時、見知らぬ中年女性がやって来て一言。「そこ、私の場所なんだけど?」私は驚いて、「今、子どもを洗っているところなので、少しだけ待ってもらえませんか?」とお願いしました。けれどその中年女性は、「いや、あなたが別の場所に行ってよ」と、泡だらけの私たちを追いやり、その洗い場へ腰かけようとしたのです。
思わぬ救世主たち
その時、さっき隣で声をかけてくれた若い女性が「ちょっとひどくないですか? 今、洗ってる途中なのに。それに、ここは公共の場ですよ? あなた専用じゃないですよね?」とピシャリ。その一言に、近くにいた他の女性たちからも「洗ってる途中の人を追いやるなんて」などと声が上がりました。中年女性はバツが悪そうに、「いいわよ、使ったら?」と吐き捨てるように言って、その場を去っていったのです。
正しい声が届くとき
気を取り直して、ゆっくりと温泉を満喫した私たち。よく見ると、浴場内の注意書きがありました。”洗い場の占領や場所取りは他のお客様のご迷惑となりますのでご遠慮ください”としっかり書かれています。
ほんの一言でも、周りの空気を変える力があります。正しいことをきちんと伝えられる人の存在は、あんなにも心強いんだなと思いました。私もあの女性のように、誰かが困っている時に自然と声をかけられる人でありたい。そんな風に思えた出来事でした。
【体験者:40代・女性パート、回答時期:2025年7月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:hiroko.S
4人を育てるママライター。20年以上、接客業に従事。離婚→シングルマザーからの再婚を経験し、ステップファミリーを築く。その経験を生かして、女性の人生の力になりたいと、ライター活動を開始。現在は、同業者や同世代の女性などにインタビューし、リアルな声を日々収集。接客業にまつわる話・結婚離婚、恋愛、スピリチュアルをテーマにコラムを執筆中。