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「あの時、ちゃんと感謝を伝えとけばよかったな……」と、一度は思うもの。
今回は、編集者として新人だった筆者が、仕事のプレッシャーに押しつぶされそうな時出会った、優しい清掃員さんとのエピソードを紹介します。

心が押しつぶされそうだったあの日

その日は朝からトラブルが続き、プレッシャーと情けなさで心が押しつぶされそうでした。
誰にも弱いところは見せたくなかったのですが、その日はもうどうしても耐えきれず、ひとりトイレの個室へ。気づけば涙が溢れていました。

清掃員・山口さんとの出会い

泣きつかれてトイレから出ると、そこには清掃員の山口さん(仮名)が立っていました。ビルの隅々まで丁寧に掃除をしている、いつも控えめで優しい人。
「大丈夫? 無理しちゃダメよ」そう、柔らかな笑顔とともにかけてくれたその一言が、どれほど心に染みたかわかりません。
それをきっかけに、山口さんと少しずつ会話を交わすようになりました。押しつけがましいところは一切なく、どんな時でもあたたかく私の話に耳を傾けてくれました。

第二の母との日々、そして訪れた別れ

ある日、山口さんは手作りのおかずを差し入れてくれました。煮物やきんぴらごぼうといった、ほっこりするような家庭料理。
その味は、まさに癒しそのものでした。疲れた心と体を、そっと包み込んでくれるようなぬくもり。いつしか、それが私の日々の楽しみになっていました。
仕事帰りに廊下ですれ違うと、「最近調子どう?」「昨日は何時まで仕事してたの?」「また上司に怒られたんだって? 大丈夫?」と、日々の些細なことを気にかけてくれました。
何気ない会話、変わらない優しさ。いつしか、山口さんは私にとって“第二の母”のような存在になっていました。
けれど、そんな山口さんが、ある日を境にビルに姿を見せなくなりました。転職したのか、体調を崩されたのか、引退されたのか理由はわかりません。

返せなかった優しさ、そして小さな後悔

今でもふとした瞬間に思い出す。あの優しい声、笑顔、そして差し出された煮物のぬくもりを。きっと今もどこかで、元気に過ごしている。そう願いながら、静かに祈る日々です。
山口さんからもらったのは、仕事のつらさを和らげる言葉だけではありませんでした。
目立たなくても、誰かの心にそっと寄り添うこと。さりげない気遣いと、見返りを求めない優しさ。気づけば、それらを通して、大切なことをたくさん受け取っていたのだと思います。
ただひとつ心残りなのは、山口さんの優しさに何も返せなかったということ。それがずっと心の片隅に残っている、ささやかな後悔です。

【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2022月4月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:miki.N
医療事務として7年間勤務。患者さんに日々向き合う中で、今度は言葉で人々を元気づけたいと出版社に転職。悩んでいた時に、ある記事に救われたことをきっかけに、「誰かの心に響く文章を書きたい」とライターの道へ進む。専門分野は、インタビューや旅、食、ファッション。

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