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今回ご紹介するのは、筆者が出版社勤務時代に出会った上司の話。営業部のベテラン男性は、孫くらい歳の離れた私に外回り中の出来事をなんでも報告してきます。「その報告、私に必要?」と困惑していましたが、いつしか「専属秘書」と呼ばれるほど上司のスケジュールに詳しくなっていき……。

社内の誰より優しくて、誰よりマメな人

営業部に、加藤さん(仮名)というベテランの男性がいました。

物腰がやわらかく、誰にでも親切。社内でも「加藤さんは本当にいい人」と評判で、いつも穏やかで丁寧に接してくれる優しい人でした。中でも私のことは、まるで孫のように可愛がってくれていて、周囲からは「完全に孫とおじいちゃんの関係だよね」と冗談まじりに言われていました。

今日も届く、加藤さん通信

「決まった案件の調子はどうだい?」「最近顔色がよくないけど、寝てるかい?」「この間の原稿よかったよ!」と、顔を合わせるたびに私のことを気にかけてくれて、私自身もその優しさに何度も救われてきました。

加藤さんは、とにかくなんでも報告してくれます。

「午後は◯◯社に訪問。そのあと15時に戻る予定だけど、雨が降りそうだから早めに切り上げて帰ります」
「とても暑いので、今日のランチは冷たいそばにしたよ」
「今、電車が少し遅れててさ。10分くらい遅れそうだけど、焦らず安全第一で向かいます」

最初は「えっ、その報告、私に必要……?」と戸惑うこともありましたが、次第にそれが日課になり、いつの間にか『加藤さん通信』が届かないと少し寂しい気持ちになるほどに。

社内の誰より加藤さんに詳しい女

気がつけば、社内で加藤さんのスケジュールを一番把握しているのが私になっていました。

「今って加藤さん外出中だっけ?」「来週のアポ変更したいって連絡きたんだけど、加藤さんの空き時間、わかる?」そんなふうに社内の人たちが、加藤さんの予定を私に聞いてくるように。

本人も「何かあったら彼女に聞いて。僕のスケジュール、ほぼ把握してるから」と周囲に言っていたらしく、「それはもう専属秘書では……?」と思うこともしばしばありました。しかし実際、訪問先も移動手段も、さらには昼食の内容まで、私はちゃんと覚えていたのです。

肩書きがなくなっても、変わらない絆

私が会社を辞めてからも、加藤さんはときどき案件を紹介してくれたり、「一緒にプロジェクトやろうよ」と声をかけてくれたりしました。現役を退いた今も、彼は営業というより「人と人をつなぐ橋渡し」のような存在です。

月に一度は一緒にご飯に行く仲で、相変わらず「最近ちゃんと食べてるか?」「無理してないか?」と気にかけてくれます。

肩書きも立場も関係なくなった今だからこそ、心から思います。この人と出会えて、本当によかった、と。きっと私はこれからもずっと、加藤さんの「非公式秘書係」であり続けるのだと思います。

【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2024年7月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:miki.N
医療事務として7年間勤務。患者さんに日々向き合う中で、今度は言葉で人々を元気づけたいと出版社に転職。悩んでいた時に、ある記事に救われたことをきっかけに、「誰かの心に響く文章を書きたい」とライターの道へ進む。専門分野は、インタビューや旅、食、ファッション。

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