今回は、人間関係の複雑さや、コミュニケーションのあり方について考えさせられたエピソードを紹介します。
毎週ある職場の飲み会
調剤薬局に新卒で入社したばかりの頃の話。
私は右も左もわからず、「空気を読むこと」に全力を注いでいました。配属されたのは、昔ながらの雰囲気が色濃く残る店舗。金曜日の夜になると繰り広げられる飲み会という名の「伝統行事」。
毎週金曜になると、先輩の菊池さん(仮名)が「さあ、今週もみんなで飲み会行くぞー!」と声をかけるのが恒例でした。
楽しみからプレッシャーへ
最初は誘われることが素直にうれしく、金曜の飲み会を楽しみにしていました。職場の先輩たちと過ごす時間は新鮮で、仲間に溶け込める感覚もありました。
しかし、次第に状況は変わっていったのです。学生時代の友人との約束を、飲み会の誘いを断りきれずキャンセルすることが増え、なんとなく罪悪感を抱くようになりました。体調がすぐれない日でも「せっかくだから一杯だけでも」と声をかけられ、断りきれずに二次会まで付き合うことも…。
いつの間にか、楽しみにしていたはずの飲み会が、断りづらい雰囲気に変わっていたのです。
週末が近づくと、「今週はどうやって断ろう」と考えるのがお決まりになっていました。
参加が当たり前のような空気感
ある日、誰かが「今日は予定があるので…」とやんわり断ったことがありました。
するとすかさず、「えー残念! あなたがいると場が締まるのに! 少しだけでも参加しない?(笑)」といった冗談交じりの圧が飛んできます。
さらに、飲み会の翌日には、「昨日はあれ面白かったよね!」と盛り上がる声があちこちから聞こえ、参加していないとなんとなく話題に入りにくい雰囲気もありました。
ただ、誘ってくれていた菊池さんに、悪気があったとは思っていません。むしろ彼女は、ただ純粋に「みんなで楽しく過ごしたい」と思っていただけ。
仲間同士で親睦を深めたい。職場の空気をよくしたい。そんな前向きな気持ちからの言動だったのだと思います。
でも、その「よかれと思って」が、いつの間にかプレッシャーになっていた。それもまた、事実でした。
飲み会は自由参加
あの頃の自分と同じ気持ちでいる新入社員がいるとしたら、そっと気にかけてあげたい。そんなふうに思えるきっかけになった経験でした。
楽しい時間だって、もちろんある。だけど、本当に大事なのは、「参加するかどうか、自分で決められること」。
参加できないという人がいたら快く受け入れてあげたり、誰でもそう言い出せる空気感を周囲が作るのが大切だと感じます。「皆が気軽に参加・不参加をできる飲み会」こそが、本当の意味での飲みニケーションだと私は思っています。
【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2015月5月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:miki.N
医療事務として7年間勤務。患者さんに日々向き合う中で、今度は言葉で人々を元気づけたいと出版社に転職。悩んでいた時に、ある記事に救われたことをきっかけに、「誰かの心に響く文章を書きたい」とライターの道へ進む。専門分野は、インタビューや旅、食、ファッション。