割り込むようにカードを出す中年女性
ドラッグストアで働く私は、その日もいつものようにレジに立っていました。
買い物客の列を順番に通していた時のこと。目の前の男性客の会計をしている最中、後ろに並んでいた中年女性が突然、自分のポイントカードをコイントレーに出してきたのです。
「まだこちらのお客様の会計が終わっておりませんので、少々お待ちください」とやんわり伝えましたが、女性は完全に無視。仕方なく男性の会計を続けることにしました。
その男性は大量に購入していたため、レジを終えたあと、私は買い物かごをサッカー台まで運びました。「ありがとう」と声をかけてくださったその一言が、少しだけ私の心を和ませてくれたのです。
「出したじゃない!」と怒る女性
レジに戻り、先ほどの中年女性の対応を開始。ですが、さっきまでトレーに置かれていたポイントカードが見当たりません。(もうしまわれたのかも)と思い、会計時に「恐れ入ります。ポイントカードをもう一度お願いできますか?」と声をかけました。
すると、「はぁ? 出したじゃない!」と不機嫌そう。「申し訳ありません。前のお客様のかごをお持ちして戻った時には、カードが見当たりませんでしたので、恐らくしまわれたのかと……」そう説明したところ、「しまってもないし、返されてもないわよ!」と語気を強めてきたのです。
(一体どういうこと?)一瞬言葉を失いましたが、ふと、ある可能性が浮かびました。もしかして、さっきの男性が勘違いして持って行ってしまったのでは?
駐車場へ猛ダッシュ!
レジから外を覗くと、さっきの男性がまだ駐車場にいました。「少々お待ちください」と女性に声をかけ、私は急いで外へ。事情を説明すると、男性の財布にはポイントカードが2枚。やはり、うっかり女性のものまで持って行ってしまっていたようです。
「すみません、それを……」と手を差し出した私に、男性は「俺も一緒に戻ります」と。
一緒にレジへ戻ると、私は女性にカードを差し出しながら伝えました。「お客様が間違えてしまったようです」すると女性は、「は? 人のポイントカードを間違えるとか、ありえないでしょ!」と激昂。その瞬間、男性がゆっくりと口を開きました。
代弁してくれた言葉
「確かに間違えたのは申し訳ない。けど、俺の会計中にポイントカードを出して、店員さんの言葉も無視してたよね?」
女性は言葉を失ったように固まります。男性はさらに続けました。「ちょっと待つだけで、こんなことにはならなかったんじゃないかな。誰にだってミスはあるけど、人のせいにする前に、自分の行動も振り返った方がいいと思うよ」
その言葉に、私は心の中で何度もうなずいていました。女性は無言のまま会計を済ませると、顔を伏せて足早に店を出ていったのです。
誰かが味方になってくれるということ
接客の現場では、困惑する状況に出くわすことも少なくありません。もちろん、私も目の前の状況だけで判断して「女性客がカードをしまったのではないか」と疑ってしまったことは大きな反省点です。
けれどあの日のように、まっすぐな言葉で助けてくれるお客様がいることが、何よりも心強く感じました。思いを代弁してくれたあの男性の言葉を、私はずっと忘れないと思います。
【体験者:40代・女性パート、回答時期:2025年6月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:hiroko.S
4人を育てるママライター。20年以上、接客業に従事。離婚→シングルマザーからの再婚を経験し、ステップファミリーを築く。その経験を生かして、女性の人生の力になりたいと、ライター活動を開始。現在は、同業者や同世代の女性などにインタビューし、リアルな声を日々収集。接客業にまつわる話・結婚離婚、恋愛、スピリチュアルをテーマにコラムを執筆中。