スタッフが恐れる女性客
私が働くドラッグストアには、毎週土曜日になると必ず現れる女性客がいます。30代くらいで見た目はごく普通。けれど、店内では誰もがその存在を意識していました。
というのも、いつも高圧的で、見下すような言い方をするため、スタッフの間ではちょっとした要注意人物。特に気を遣うのが領収書。毎回、宛名や但し書きの指定が細かく、対応したスタッフはたいてい疲れ切って戻ってくるのです。
幸いにも私が担当することはこれまでなかったのですが、ついにその日がやってきました。
「さっき見せたじゃない」に込められた圧力
レジに立つ私の前に現れたその女性。「いらっしゃいませ」と声をかけた瞬間、その言葉にかぶせるように「領収書、これで」と言いながら名刺を差し出してきたのです。確認する間もなく、それはすぐに彼女のバッグの中へ戻ってしまいました。
会計が終わり、「領収書の宛名をお書きします。先ほど確認できなかったため、恐れ入りますがもう一度教えていただけますか?」とお願いすると、女性の顔が一瞬で曇りました。
「はぁ? さっき見せたじゃない!」眉をひそめながら睨んでくるその様子に、私は内心身構えたけれど、落ち着いて「間違いがあってはいけませんので、再度確認させてください」と頭を下げました。女性は大きなため息をつきながら、もう一度名刺を突き出します。
小さなミスも許されない空気
続いて但し書きを尋ねると、強めの口調で「じょくそうパッド!」と一言。”じょくそう”とは床ずれのことなのは分かっていたのですが、漢字がすぐに思い浮かびません。「申し訳ございません。漢字を確認させていただきます。」と伝え、店用スマホで検索を始めようとすると、「じょくそうって漢字知らないの?(笑)」と、鼻で笑うように言われたのです。
その瞬間、これまで対応したスタッフたちの気持ちが痛いほど分かりました。こんな言い方をされたら、誰だって疲弊してしまいます。私は怒りを抑え、ひと呼吸おいてから「私の中では日常的に使う言葉ではありませんでしたので、間違いがないように確認させていただきます。」と丁寧に返しました。
調べた結果、”褥瘡”と分かり無事に記入。領収書を渡すと、女性は吐き捨てるように一言。
「もう少し漢字、勉強したら?」
思わぬ援護射撃
私は馬鹿にされて悲しい気持ちを抑えながら「申し訳ございませんでした」と一言告げ、袋詰めを始めた女性へのモヤモヤを抱えたまま、次に並んでいた2人組の男性のレジ対応を始めました。そのときです。
「じょくそうって漢字、すぐに書ける人なんてなかなかいないんじゃない?」
「自分は知ってるからって、知らない人をバカにするのって、カッコ悪いよな」
わざと女性に聞こえるように話す男性たち。その言葉に、女性は空になった買い物かごを床に放り投げ、鋭い目つきで彼らを睨みつけました。
すると男性の1人が「お店の物をそんな風に扱うのは、よくないと思いますよ。」と冷静に言いました。他のお客様たちの目線も集まり、女性は顔を真っ赤にして、何も言わずに足早に店を出ていったのです。
接客での最も強い武器とは
女性客にも何か事情があるのかもしれません。しかし、店員も同じ人間であり、あまりに理不尽な態度をされてはつらいこともあります。ぐっと感情を抑えている私に対するその日の男性客達の援護射撃に、私は胸がじんと熱くなりました。
高圧的な態度をとるお客様への接客においては、完璧な知識や対応も大切ですが、感情を乱さずに対応することこそが、最も強い武器なのかもしれません。どんな職場でも、どんな接客でも、誠実な対応ができる人でありたいと、改めて感じた出来事でした。
【体験者:40代・女性パート、回答時期:2025年6月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:hiroko.S
4人を育てるママライター。20年以上、接客業に従事。離婚→シングルマザーからの再婚を経験し、ステップファミリーを築く。その経験を生かして、女性の人生の力になりたいと、ライター活動を開始。現在は、同業者や同世代の女性などにインタビューし、リアルな声を日々収集。接客業にまつわる話・結婚離婚、恋愛、スピリチュアルをテーマにコラムを執筆中。