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お客様が安全に着席したことを確認し、飛行機を定刻に離陸させること。CAにとって大切な任務のひとつです。しかし長年フライトに携わっていると、なかなか安全運航にご理解をいただけず苦戦するケースも少なくありません。今回は、筆者の同期のCAから聞いた、あるお客様とのトラブルのご紹介です。

飛行機の離着陸時のルールはご存知ですか?

私が航空会社で働いていた時に、同期のCAから聞いた話です。以前同期が担当したフライトで、頑なに手荷物収納を拒む中年女性のお客様がいたそうです。

飛行機では離着陸時、一定サイズ以上の手荷物は座席の下か棚の上に収納しなければなりません。万が一緊急事態が起きた際に、脱出の妨げになる恐れがあるからです。このルールは航空会社の規程で定められているため、収納できない限り飛行機は出発できません。

離着陸時の手荷物収納に応じないお客様が……

お客様が手荷物収納を拒んでいた理由は、某高級ブランドの大変高価なバッグを持っていたから。

「頑張って買ったブランドバッグなのよ! これいくらすると思ってるの? このバッグを収納するなんてありえない。あなたに何の権限があるの?!」と言い放ち、怒りが収まりません。

確かに気持ちは分かりますが、規程で定められている以上は協力してもらわなければなりません。同期は手荷物収納の理由などを丁寧に説明するものの、お客様の態度は全く変わらず。

「私の大事なバッグを座席の下や棚に置くなんてできない! だったらこの飛行機を降りてやる!」と断固拒否で、とうとう出発予定時刻を過ぎても飛行機が出発できない事態となってしまいました。

困り果てた同期が取った行動は?

あらゆる手を尽くしても解決せず、困り果てた同期は発想を変えてみることに。

(ダメ元で他のCAが対応すれば、何か変わるのでは……?)

そう思い、同乗していた男性CAに対応を代わってもらうことにしました。ちなみに、この男性CAは社内でも評判になるほどのイケメン。

「頼む! この状況をなんとかして打破してくれ……」

同期は、すがるような思いで男性CAに助けを求めました。

お見事すぎた男性CAのご案内

バトンタッチして例のお客様のもとへやってきた男性CA。身をかがめ、まずはお客様としっかりと目線を合わせました。

そしてお客様の気持ちに寄り添うように、改めてこのようにお願いをしたのです。

「この度は大変心苦しいお願いをしてしまい、誠に申し訳ございません。ただ、おカバンを収納して頂かない限りは、この飛行機は出発できないのです。お客様も目的地で大事なご予定がおありでいらっしゃるでしょう。きっとお客様のご到着を心待ちにされている方もいらっしゃると思います。どうか、ご協力頂けないでしょうか」

すると、なんとお客様の態度はコロッと一変。「そこまでいうなら仕方がないわね! ま、収納してあげてもいいでしょう!」と、あっさり手荷物収納を承諾したのです。

同期は心の中で拍手喝采!「やっぱり彼に任せてよかった! 本当にありがとう、これで飛行機が出発できる!」と歓喜したのでした。

男性CAから得た学びとは

出発時には大騒ぎだった飛行機も、なんとか無事に目的地に到着。同期は、男性CAと自分とでなにが違っていたのかを振り返りました。もちろん、見た目が爽やかなイケメンCAだったから女性のお客様が気分をよくした、というのも手荷物収納に応じた理由のひとつかもしれません。

ただしそれとは別に、同期は「他のお客様のご迷惑になるので……」「飛行機が出発できないと困るので……」という自分たち都合の案内しかできていなかったことにも気が付きました。男性CAはお客様の気持ちに寄り添いつつ、「飛行機が出発できないとお客様自身も悲しい思いをする」こともさりげなく伝えていたのです。

同期は男性CAの素晴らしい対応に感謝すると共に、見た目の自分磨きも仕事も、もっと頑張ろうと心を新たにしたそうです。そして、「やっぱり仕事って奥深いよね。あの男性CAはただのイケメンじゃなかったみたい。たくさん学ばせてもらって、色んな意味で助けられちゃったな」と、生き生きとした表情で語ってくれました。

【体験者:30代・会社員、回答時期:2025年5月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:阿川香織
日系航空会社で国際線・国内線の客室乗務員として勤務。現在は退職し、乗務員時代に得た知識や出会ったお客など、女性ならではの視点でコラムを執筆。子育てに奮闘しながら、女性を言葉で元気づけたいと精力的に情報発信をおこなう。

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