上京したての私を気にかけてくれる店長
東北の田舎にある地元の高校を卒業した私は、就職のため上京しました。初めての都会の生活。最初こそ新鮮だったのですが、満員電車での通勤や慣れない人の多さ、そして家族と離れたことで毎日寂しい思いをしていました。
職場は都内のガソリンスタンド。同じ店に配属になった同期が同じ東北出身だったことも心強かったのですが、なによりも店長が優しくいつも気にかけてくれていたことが私にとって大きな心の支えでした。
頻繁に同期共々ご飯をごちそうしてくれたり、仕事の合間にもくだらない話を振って和ませてくれたり。都会暮らしの寂しさや不安も、会話の流れで自然と店長に話すようになっていました。
毎日少しずつしか給油しない高齢の男性客
私の働く店に、毎日給油に来る高齢の男性客がいました。しかも毎回5〜10リットルずつしか給油していかないのです。量が少ないわりに、いつも車から顔を出して私に声をかけてくれて、地元の話や私の休日の話を聞いてきます。
次第に仲良くなったのですが、毎日来ては少しずつしか給油していかない男性の行動は、私にとって不思議で仕方ありませんでした。
「すごく自然に笑っているよ」
ある日、男性客が帰ったあとで店長に聞いてみました。「満タンにすれば毎日来る必要なんてないですよね?」
そう伝えると、店長は「ははは、そうかもね」と笑います。そして「でも、あのお客さんを接客してる君は、すごく自然に笑っているよ」と続けました。確かに私は、男性客とは実家の近所のおじさんと話しているくらい自然体でいられたのです。
しばらくして、私は思い切って男性に“毎日給油しに来る理由”を直接聞いてみることにしました。
思い切って男性客に聞いてみると……
男性はこう教えてくれました。
「見慣れない子がいるなと思って店長に聞いてみたんだ。そしたら、親元を離れて田舎から出てきたばかりだって。それで店長に“もしよかったら給油のたびに声かけてくれませんか?”って頼まれたんだよ! なじみ客が1人でもできれば、きっと少しは気が楽になるだろうからって」
私を心配した店長が、元々常連だった男性にお願いしてくれたことだったのです。ただ男性は慌てて、「最初だけだよ。だんだん本当に楽しみになったからずっと毎日来てたんだ」とも。
店長と男性客の気遣いがとても嬉しく、東京の人の温かさを知った出来事でした。
【体験者:40代・女性パート、回答時期:2025年4月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:hiroko.S
4人を育てるママライター。20年以上、接客業に従事。離婚→シングルマザーからの再婚を経験し、ステップファミリーを築く。その経験を生かして、女性の人生の力になりたいと、ライター活動を開始。現在は、同業者や同世代の女性などにインタビューし、リアルな声を日々収集。接客業にまつわる話・結婚離婚、恋愛、スピリチュアルをテーマにコラムを執筆中。