給油しに来たのは、蝶野さん似の強面男性
高校卒業と同時に上京した私は、都内のガソリンスタンドで働いていました。とても忙しいお店だったのですが、その分色々な作業を覚えるのには最適な環境でした。とはいえ、お客様も忙しい方が多いので作業はスピード勝負。手を抜くこともできません。
働き始めて1か月ほど経った頃、私が接客したのはプロレスラーの蝶野正洋さんに似た強面の男性。給油だけのために来店した男性でしたが、「よかったら、無料でエンジンルームの点検を行っていますが」と声をかけると、「それじゃ点検しといて」と答えてくれたのです。
「すぐに終わるなら交換して」
エンジンルーム点検の声かけは営業のひとつ。オイル交換やウォッシャー液の補充、バッテリー交換に繋げることができるのです。もちろん、メンテナンスをしっかりされていて補充や交換が必要ないお客様に対し、無理やり営業をかけることはしません。
ですが、強面男性の車のエンジンオイルは交換時期も過ぎている上に、汚れと量にも問題がありました。男性に伝えると、「あまり時間がないから、すぐに終わるなら交換してくれる?」と言ってくれたので、私は張り切って作業に入りました。
大幅な時間オーバーに冷や汗
しかし、まだ慣れていないので、ひとつひとつ確認しながらの作業です。ミスがあれば故障するだけでなく、お客様の命にも関わること。とにかく正確に作業を進めていきました。そのため、私は時間を確認するのを忘れてしまっていたのです。
やっとの思いで作業を終えた時、初めて時計を見て冷や汗が出ました。慣れている先輩なら10分程度の作業を、私は30分近くもかかっていたのです。「時間がないから」と男性は言っていたのに、大幅な時間オーバー。怒られることを覚悟しました。
頭を下げた私に男性がかけた言葉は
待合スペースで待つ強面の男性客は、サングラスをかけているので表情が分かりません。とにかく男性の元へ行き、「時間がかかってしまい本当に申し訳ありません!」と頭を下げた私に、男性がかけてくれた言葉は意外なものでした。
「丁寧にやってくれてありがとう。頑張ってたね」
上京したてで働き始めたばかりの私は、この言葉と強面男性が見せた笑顔に心の底から救われました。「人は見た目じゃないんだな……」と改めて感じた出来事です。
【体験者:40代・女性パート、回答時期:2025年4月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:hiroko.S
4人を育てるママライター。20年以上、接客業に従事。離婚→シングルマザーからの再婚を経験し、ステップファミリーを築く。その経験を生かして、女性の人生の力になりたいと、ライター活動を開始。現在は、同業者や同世代の女性などにインタビューし、リアルな声を日々収集。接客業にまつわる話・結婚離婚、恋愛、スピリチュアルをテーマにコラムを執筆中。