農家の常連患者Sさん
私が調剤薬局に勤めていた時の話です。月に一度来局される男性患者Sさんは、毎回なにかしら差し入れを持ってきてくれる人でした。Sさんは農業を営んでいて、ときどき山へ山菜を採りに出かけるようで、訪れた時は必ず、採れたての野菜や山菜のおすそわけを持ってきてくれました。
謎のおすそわけ
ある日、Sさんはいつものように「おすそわけ持ってきたよ~!」と言いながら、家庭用ごみ袋いっぱいに謎の葉っぱを持ってやってきました。私は「いつもありがとうございます! これ、なんですか?」と尋ねるも「なんだかわかんないけど、食べてみて」と言い残し、意気揚々と帰ってしまいました。得体の知れない葉っぱに戸惑いながらも、その葉っぱを調べるもなんの山菜かさっぱりわからず、スタッフ一同困り果ててしまいました。
休憩室へ取り残された葉っぱ
その後、スタッフ総出で調べてみたものの、結局その葉っぱの正体はわからず……。
「何かわかったら、みんなで分けて持ち帰ろう」と話し、葉っぱが入った袋は、一時的に休憩室の倉庫で保管することにしました。
発見された葉っぱの末路
いつの間にか時は過ぎ、気づけば年末。薬局内の大掃除をする時期がやってきました。私は、休憩室の掃除を担当しました。そして、“あれ”と再会することに……。
見覚えのあるごみ袋が視界に入ってきました。それは、閉まったまま忘れ去られてしまった「謎の葉っぱ」でした。袋を開けてみると、パリパリに変わり果てた姿が。「せっかくいただいたのに」と申し訳なく思いつつ、結局葉っぱは、燃えるごみとして処分することになりました。
「おすそわけをしよう」という気持ちはとてもありがたいのですが、正体のわからないものは、扱いに困ってしまいます。厚意を無駄にしないためにも、「何かわからないものは受け取らないようにしよう……」とみんなで反省した出来事でした。
【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2021年5月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:miki.N
医療事務として7年間勤務。患者さんに日々向き合う中で、今度は言葉で人々を元気づけたいと出版社に転職。悩んでいた時に、ある記事に救われたことをきっかけに、「誰かの心に響く文章を書きたい」とライターの道へ進む。専門分野は、インタビューや旅、食、ファッション。