世界に飛び立つ日本のファッション人!いま世界の各都市で、さまざまなカタチで海外のファッションに携わる日本人が増えています。そんな「世界で活躍するファッション業界人」を紹介するこの企画。

今回お話を聞いたのは手編みのニットウェアブランドliTTLe sHAmanを手がけるオノリナさん(以下リナさん)です。リナさんは名古屋を中心にニットアーティストとしての活動を続け、2022年秋からドイツに拠点を移しました。ドイツの首都ベルリンは自分にとってのニット人生の第二章だと語るリナさんに、日々のお気に入りのコーディネートを紹介してもらいながらベルリン1年目の暮らしについて教えてもらいました。  

青いベストはベルリン・マウアーパークで毎週日曜日に行われているフリーマーケットで購入した古着のアディダスです。パンツも同じくマウアーパークで見つけたものですが、ベルリンのローカルブランドの出展ブースで購入しました。ハイウエストでフレアなデザインが私的にパーフェクト。トップスはZaraです。いつもカラフルなアイテムばかり買ってしまうのでインナーはシンプルなものを選ぶことが多いです。ヒールブーツもZaraです。

人生の節目にニットの存在を強く意識

2022年の9月にベルリンに拠点を移すまではずっと名古屋で活動していました。私のニット制作の背景は洋裁で、高校・専門学校ともに服飾の学校に通っていました。洋裁とニットってファッションの世界の中ではっきり分かれているジャンルなので学校では専門的にニットを学んだことはないのですが、もともと母が手編みをしていて、小さい頃から毎年冬になると母の手編みのセーターを着ている父の姿を見ていました。常に手編みという存在が家庭の中にあったのです。私自身の手編みの経験は高校2年生の時に当時の彼氏にかぎ編みのニット帽を作ったのが始まりです。それ以降、しばらくニットのことは特に考えていなかったのですが専門学校の卒業制作に取り組む中でポン!と閃き、再びニットの作品をつくろうと思ったのです。編み物のできる先生のもとへ毎日通い、オール手編みの作品をつくりました。それをきっかけに「ミシンよりニットのほうが楽しいかも!」と目覚めました。小学生の頃にはビーズクラブに入ったり、趣味で刺繍をやったりと手芸全般が大好きだったのでそれも土台にあったと思います。

専門学校を卒業後、アパレル会社に就職しました。販売員として地元の名古屋で勤務して1年が経った頃、会社が東京の企画部署に来ないかと誘ってくれたのです。またとない機会だったのですが、自分が何をしたいのか改めて考えた時期でもありました。ふと「私はニットで服を作りたいんだ!」と強く思い、結局退社したんです。それも大きな転換でしたが(笑)。そしてニットブランドliTTLe sHAmanの活動を始めました。最初からニット一筋だったわけではなく、人生の節目にニットの存在を意識する機会があった感じですね。ブランドを立ち上げてからはセレクトショップに取り扱ってもらったり、布帛で服を作っている作家さん達とコラボをして作品を作ったり、積極的に人に見てもらえる機会を設けるうちにオーダーをしてくれる方が現れるようになりました。

ベルリンの寒い冬のために、頭をすっぽり包んでくれるバラクラバを制作しました。最初に作ったものは私の一番好きな配色であるピンクと赤のバラクラバです。オレンジと紫のものは丸とハートの編み込み模様のデザインをパソコンで起こした時に「バラクラバの後頭部に柄が並んでいたら可愛いかも!」と思い、デザインに採用しました。

いろいろな文化が混在するベルリンに惹かれて

最初にベルリンに訪れたのは3年前、憧れていたドイツ人のニットアーティストに弟子入りしたくてドイツに滞在した時のことです。そのアーティストの方はドイツ・デュッセルドルフを拠点に活動していたので、ベルリンには観光で立ち寄るだけのつもりでしたが、最終的には滞在中に訪れた街の中でも圧倒的にベルリンが好きで忘れられなくなってしまいました。

その滞在ではドイツやその周辺国の街を3ヶ月かけていろいろと訪れたのですが、ベルリンだけは自分がアジア人であるとか外国人であるということを意識せずに過ごすことができた気がします。すれ違う人にチラッと見られたりすることもなく、誰も周りの人のことを気にしていないような自由な雰囲気がすごく心地よかったのです。ドイツの他の都市にいる時は、ドイツ語を話せないことで周りに圧倒されてしまうこともありましたが、それに比べてベルリンは国際的でいろいろな文化や民族が混在している印象を持ちました。

日本に戻ってからもベルリンのことで頭がいっぱいになってしまったので移住を決意し、自分の生活の環境を整えたのちに2022年9月に再びベルリンへ渡りました。現在はワーキング・ホリデー制度を利用して1年間の滞在許可を持っていますが、今年の秋にフリーランスのビザに切り替える予定です。

出国する前から当面は日本に帰らないぞと決めていたので移住前に1年かけてお金を貯めました。お金を理由に何かを諦める状況を作りたくなかったからです。また、自分のやりたいことをやるためにベルリンに来ているのだという意識を持つためにもベルリンに来てからすぐに活動を開始しました。

カラフルなテキスタイルが特徴のジャケットはベルリン・クロイツベルク地区の古着屋さんで購入。古着屋さんに行くほうが私の好きなものが見つかる可能性が高いので20歳の頃から古着ばかり着ています。トップスはユニクロ、デニムはZaraです。靴はアディダス バイ ステラ マッカートニーです。ラブラドライトのペンダントは日本にいる時からつけているお気に入りのアイテムです。

トップスのカレーTシャツは貰いもの。インナーはユニクロを着回しています。スカートはベルリン・クロイツベルク地区の古着屋さんSing Blackbird Vintageのポップアップイベントを訪れた時に手に入れた、ハンドメイドのブランドです。靴下はファミマです!厚みがちょうどいいし大好きです。ボリューム感が気に入っているスニーカーはアディダスのものです。

ヘアアレンジは全体のバランスを見て決めています。ツインお団子のスタイルは私の定番ヘアの一つ。

街の人々を通して見えるもの

現在はドイツ語学校に通いながら制作を続けています。実際に住んでみて感じたベルリンの良いところは他人と知り合いの境界線がはっきりしていないところです。まったく知らない人にも電車の中でいきなり「あなたの服、好きだよ!」と声をかけられ、それをきっかけにちょっとした世間話をすることも。私の育った名古屋ではなかなか起こらないことだったので最初は少しびっくりしましたが、その距離感っていいなと思ったのです。

私自身もそういった環境に慣れてきて、知らない人と喋る時の距離感や自分の中のテンポ感も次第に変わり、オープンマインドになってきたと感じます。そしてオープンな自分が受け入れてもらえるのだということがわかってきて、さらに安心して自分を解放できるようになりました。

私にとって人とのコミュニケーションは欠かせないものだし、いつも制作のインスピレーションとなるのは街の人々の姿です。服装って、その人の個性や気分がとても反映されるものだから見ていて楽しいです。「こういう格好をしている人はああいう気分なのかな?」とか「あの人はこのあとどこへ行く予定だろう?」といったように、その人の内面と紐づいているストーリーを考えることが好きです。

そして、かっこいいなとか素敵だなと思う人を見つけると「どうしてその格好が自分の心に刺さったのだろう?」と頭の中で分析しています。その分析をいつも繰り返し行なうと、自然と自分が欲しい服が浮かんでくるようになるのです。また、映画やドラマで見た可愛い衣装の配色も頭にストックしているのでそれをインスピレーションとして自分のデザインに落とし込むこともあります。

黒のトップスはベルリン・ミッテ地区に店舗を持つREMESALTというブランドのもの。もともとリメイクしてあるトップスですが、自分でさらにリメイクをして袖を切り取り裾に移植しました。よく履いている白いパンツはLENOのハイウエストデニムです。形が綺麗で気に入っています。

人生の第二章

ベルリンに来た段階で、自分の人生の第二章を迎えると思っていました。それまでの活動に一旦区切りをつけて新しいことをしたいと思っていたのです。もちろんこれからもニットを作り続けることには変わりないけれど、何か他のカタチでもニットに関わることはできないものかと模索していました。そこで注目したのがドイツの毛糸。ドイツは編み物の文化が盛んだし、素晴らしい毛糸メーカーがたくさんあります。日本でもドイツブランドの毛糸は人気ですし、お店で見かけることも多いと思いますが、ベルリンに来てから日本では無名の可愛い糸がまだまだたくさんあることに気づいたのです。インディペンデントなブランドの毛糸は日本では出回っていないし、そういった毛糸のオンラインセレクトショップをやりたいと思っています。そしてドイツの独特な色合いやデザイン、配色の仕方を紹介できる場を作りたいです。ドイツの毛糸って楽しいですよ!

周囲の人には毛糸屋さんをやるなら繊維産業が盛んなイタリアもオススメだよと言われることもありますが、私はあくまでドイツに居たいなと思っています。ニットの活動に限らず、そもそもドイツが好きなのです。ドイツ語の響きも好きだし、文化も暮らしも、なんだか自分にしっくり来た気がします。

おわり

絶妙な配色を得意とし、独創的でありながらも実用性を感じられる作品づくりを続けるリナさん。彼女の制作のインスピレーションは、街中に点在しています。日々目にするものを吸収し、自分らしいカタチで表現する彼女のスタイルにはあくなき好奇心と閃き力が欠かせません。

ニット制作にすべてを捧げた名古屋での生活を経て、リナさんはいまベルリンで新しいニットとの関わり方を模索しています。常に制作に対して強い情熱を持ち続けているからこそ次なる目標を見つけることができるのだと感じ、印象的でした。彼女の今後の活動に期待が高まります。