尊敬する先輩の意外な一面
私が新入社員としてホテルの商品企画部に配属された時、宣伝担当の河野さん(仮名)から仕事を教わっていました。河野さんは、仕事が迅速で的確、人を巻き込む話術の巧みさもあって、周囲から一目置かれる存在。私にとって頼れる先輩であり、尊敬すべき指導者でした。
ただひとつ印象的だったのは、いつも会社支給の地味な紺色のスーツ姿だったこと。髪も寝癖が目立つことが多く、外見に一切頓着しない人だったのです。でも、その飾らない姿が、彼への信頼感をより一層高めているようにも感じられました。
巧みな話術で撮影現場の人気者に
ある時、婚礼パンフレットを一新する大規模なプロジェクトが始動。
大手の広告代理店が入り、人気モデルを招いて3日間にわたる大掛かりな撮影が行われることになりました。もちろん宣伝担当である河野さんは、その撮影に終始付き添います。
河野さんが入念な準備を行い、現場では持ち前の社交性を発揮しながら場を和ませていたおかげで、撮影は終始和やかな雰囲気の中、順調に進んでいきました。
完璧な仕事ぶりと人柄は、代理店の方々の心も掴んだようで、その後も交流は続き、時折飲み会に誘われては出かけて行くようになったのです。
驚くべき変貌と周囲の心配
その頃から河野さんの装いに少しずつ変化が見られるようになりました。地味なスーツから流行のデザインへ、無造作な髪も軽いパーマで整えられ、みるみる洗練されていったのです。まるで別人のように垢抜けていく河野さんの姿に、私を含め同僚たちは驚きを隠せませんでした。
他部署の人からも、「河野さん、最近おしゃれになっているよね。どうしたの?」と聞かれるほどでした。みんな彼の劇的な変化の理由が気になっていたのです。
明かされた真実
そんなある日、河野さんから突然の結婚発表がありました。お相手は、隣の部署で働く博美さん(仮名)。結婚発表まで、二人は交際がバレないよう細心の注意を払っていたそうで、「代理店との飲み会」と称していたのも、ほとんどは博美さんとのデートだったことが判明しました。
そして、博美さんから「もう少し身なりに気を遣ってほしい」と頼まれたことが、河野さんの変貌の理由だったことも!
人の変わるきっかけは実に様々ですが、愛する人のために一生懸命努力した河野さんを想像すると、なんだか微笑ましく、河野さんという人への信頼がより一層深まったのでした。
【体験者:60代・会社員、回答時期:2025年10月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:Sachiko.G
コールセンターやホテル、秘書、専門学校講師を歴任。いずれも多くの人と関わる仕事で、その際に出会った人や出来事を起点にライター活動をスタート。現在は働く人へのリサーチをメインフィールドに、働き方に関するコラムを執筆。