人生で最も美しく、幸せな瞬間であるはずの結婚式。時として複雑な人間関係や感情のもつれが隠されているものです。筆者の友人が体験した、絢爛豪華な結婚式にまつわる恐ろしくも悲しいエピソードをご紹介します。

理想の新郎新婦

真理子(仮名)が勤める結婚式場で、地元名士のご子息の挙式・披露宴が決まりました。新郎は有名大学を卒業し、大手銀行に勤めるエリート。品のある物腰と穏やかな笑顔から、育ちの良さがにじみ出ています。新婦は、新郎の父の取引先企業の社長秘書で、その美しさに新郎が一目惚れしたのだとか。まさに誰もがうらやむ理想の新郎新婦。400名以上を招いての盛大な披露宴の準備も順調に進んでいました。

前日の不穏な電話

結婚式前日の午後、式場に一本の電話が入りました。低く震える女性の声で「明日の結婚式をぶち壊しに行く」とだけ告げ、名前を名乗らずに切れてしまったのです。悪質ないたずらかもしれないと思いつつ電話の内容を新郎に伝えると、彼の表情が一変しました。どうやら心当たりがあるようです。彼が静かに語ったのは、半年前まで5年間交際していた女性の存在でした。新婦との結婚話が急に進み、一方的に別れを告げて以来連絡も取っていなかったのが、自分にも同様の電話がかかってきたとのこと。完璧と思われていたお二人の式に不穏な気配が漂い始めました。

新郎の苦悩

式場は警察への連絡を勧めましたが、新郎は「大ごとにはしたくない。新婦にも絶対に言わないでほしい」の一点張りでした。400名以上の来賓が集まる中で何か起これば、式場の責任も問われかねません。新郎のご両親も含めた協議の結果、最終的に通常より多くの警備員を配置し、厳戒態勢で当日を迎えることになりました。表向きは笑顔と祝福が溢れる盛大な披露宴。しかし裏では、式場全体が息をのむほどの緊張感に包まれていたのです。

愛の代償と女性の叫び

幸い、電話の女性は現れず、式も披露宴も無事に終了しました。しかし新郎にとって、人生最良の日は恐怖と不安に怯える日であったに違いありません。
もちろん、このような脅迫は絶対にやってはならないことです。しかし何も知らない新婦、そして心に深い傷を負ったであろう元恋人——。ふたりの気持ちを思うと、真理子は同じ女性として行き場ない憤りを感じたのでした。

【体験者:40代・女性会社員、回答時期:2015年4月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:Sachiko.G
コールセンターやホテル、秘書、専門学校講師を歴任。いずれも多くの人と関わる仕事で、その際に出会った人や出来事を起点にライター活動をスタート。現在は働く人へのリサーチをメインフィールドに、働き方に関するコラムを執筆。