セレクトショップ『フリークス ストア(FREAK'S STORE)』が、2024年春にローンチしたウィメンズの新ライン『ザ ヤーン フリークス ストア(The Yarn. FREAK'S STORE)』が注目を集めています。プロジェクトに携わるデイトナ・インターナショナル PRの鈴木栞奈さん(28)と、MDの藤井千佳子さん(31)にインタビュー。

『ザ ヤーン フリークス ストア』2024年秋冬コレクションのニットをまとって。【左】藤井千佳子さん(31/デイトナ・インターナショナル FREAK'S STORE事業部 商品1課 ウィメンズMD アシスタント)・【右】鈴木栞奈さん(28/同社 ブランディング本部 プレス部 プレス課 課長・コーポレートPR)

多くの働く女性が、キャリアやライフステージの転換期を迎え悩みがちな30歳前後の節目にあたる鈴木さんと藤井さん。新卒で就職した会社に留まり、与えられた業務や役割をこなしながらも、新ラインの立ち上げを通じて自分たちが本当に実現したいことを模索するふたりの現在地をクローズアップします。

『ザ ヤーン フリークス ストア』ってどんなライン?

『ザ ヤーン フリークス ストア』2024春夏キャンペーンビジュアル

2024年4月にデビューした『ザ ヤーン フリークス ストア』は、大人の女性が楽しめるカジュアルスタイルを提案する『フリークス ストア』の新ライン。みんなから愛される女性をイメージし、フレッシュでキュートなムードをまといながら、トラッドベースで品格が漂うような特別なワードローブを提案しています。

『ザ ヤーン フリークス ストア』2024秋冬キャンペーンビジュアル

『フリークス ストア』を運営するデイトナ・インターナショナルは、アメリカンライフスタイルの楽しみ方を提案するセレクトショップとして1986年に茨城県の古河市に創業。現在、全国に約60店舗を展開しています。アメカジスタイルを得意としていて、『カナダグース』や『ネペンテス』など、同社が競合に先行して真っ先にピックアップし、今やすっかりマーケットに定着した人気ブランドも多数。独自の審美眼とフロンティアスピリットが光るアパレルカンパニーとして、多くのファッションフリークを魅了しています。

【就職先選び】なぜデイトナ・インターナショナルに入社したのか?

『ザ ヤーン フリークス ストア』を立ち上げた経緯について語る鈴木さん(左)と藤井さん(右)

ーー新卒でデイトナ・インターナショナルに入社した生え抜き社員である鈴木さんと藤井さん。競合他社が多い中、なぜ同社を選んだのでしょうか?

藤井さん:もともときれいめなファッションが好きな自分にとって、弊社の強みのひとつであるアメカジスタイルにはあまりなじみがありませんでした。しかし、そうした自分にとって未知の分野に強い会社で働いたほうが人生がおもしろくなるのではないかと期待を抱き、入社を決めました

鈴木さん:洋服が好きで、学生時代もギャルブランドでアルバイトをしていたのですが、いざ就職となった時に、アパレルだけでなくさまざまな取り組みをしているデイトナに注目しました。この会社なら、アパレルをベースに、ほかの事業への選択肢も将来的な視野に入れられると思いました。

ーー新卒社員はまず店舗からキャリアをスタートするケースが多いですが、おふたりのショップスタッフ経験について教えてください。

鈴木さん:入社後はルミネエスト 新宿ウィメンズ店に配属され、約5カ月間の店舗勤務を経て本社に異動しました。「アパレルに就職するからには、いつかPRを経験してみたい!」と常に意思表示していたのが人事担当者の記憶に残っていたのか、広報部門が人手を探しているというターンで、運よくピックアップされました。

藤井さん:私は渋谷店から池袋パルコ店に異動になり、4年目で店長を任せていただきました。女性では早いほうだったと思います。その後、渋谷スクランブルスクエアのグランドオープンに伴って異動したのですが、コロナ禍に突入したタイミングで商品企画部に異動となりました。

「顧客や取引先に提案できる商材がない!」現場のモヤモヤから新ライン着想へ

『ザ ヤーン フリークス ストア』2024春夏キャンペーンビジュアル。アメカジやヴィンテージライクといった『フリークス ストア』が持つ従来の強みを生かしながら、大人の女性に提案できる商材を模索した

ーー『ザ ヤーン フリークス ストア』誕生に至るまでのプロセスを教えてください。

鈴木さん:コロナ禍下でも、幸い『フリークス ストア』は売上が堅調でした。外出自粛ムードの中、おうちで着やすい服・ゆったり着られてラクな服・アウトドアムードの服といった、ブランドが強みとする商品への需要がめちゃくちゃ高かったのです。

藤井さん:『フリークス ストア』は創業以来ずっとメンズの売上が中心だったと聞いていたのですが、コロナ禍の真っ最中に男女比が逆転したタイミングがあったんです。特にウィメンズのオリジナルアイテムがよく売れていました。商品部としても、“お客様に好評の商品群を強化しよう”という流れへ自然にシフトしていきました。

鈴木さん:でも、ずっとメンズが強かったゆえの反動といいますか、女性、特に私たちと同世代にあたる30歳前後の女性のお客さまに提案できるようなちょうどいい商材が圧倒的に不足していたのです。店頭で接客しながらも、“せっかくお店にいらしていただいたにもかかわらず、取りきれていないお客さま”の存在がずっと心に引っかかりを感じていました。

コロナ禍下でも店頭での接客に手応えを感じていたものの、「同世代の女性に提案できる服がない!」というジレンマに悩み、新ライン立ち上げへの思いを強めていったと語る鈴木さん

ーー鈴木さんはPRですから、女性誌の企画などでリースの声がかかっても、そのニーズに対応できる商材がないとヤキモキしますよね。

鈴木さん:そうなんです! 「自宅で洗える服」「アウトドア・キャンプ」といった実用的な企画や、若者層向けの企画なら強いのですが、どうしても限界があり、やや物足りなさを感じていました

藤井さん:商品部の立場から見ても、私たちが獲得できている顧客層の分布にヒントがありました。いちばん厚い顧客層は18〜26歳くらいまでの大学生・若手社会人で、次の山は30代のママ層と、一気に世代が飛んでしまっていたのです。SC(ショッピングセンター)に多く出店しているせいもあり、SCの主要顧客層とリンクしてはいたのですが……。

ーー肝心のおふたりが属するアラサー世代がスッポリ抜け落ちているのでは.....!?

藤井さん:そうなんです!!! 自分たちの世代こそ手薄だと気づいて「これではいけない!」と思いました。

鈴木さん:今の時代、若いお客さまにご支持をいただいていることは本当にうれしいのですが、一方で「自分の年齢に似合うような売りたい服がない」と、自身の年齢と商材のギャップに悩んでいるスタッフもいました。

『ザ ヤーン フリークス ストア』2024春夏キャンペーンビジュアル

ーー30代前後の女性のファッション嗜好は非常に多様化していますから、そこを狙うなら、会社としても慎重に対策を練る必要がありますね。

鈴木さん:そこで、同じ課題に直面してモヤモヤしていそうな同世代の社員を社内で募り、集まった7人くらいのメンバーで、新ウィメンズライン立ち上げに向けたワーキングチームを始動しました。ちょうど、商品部と広報部の各トップからも「女性のお客さまに刺さりそうな商品を考えてみないか?」と声を掛けられたタイミングでもありました。

藤井さん:『フリークス ストア』は全国に約60店舗展開していますが、近年は働く女性が多く集まる商業施設に注目しているんです。

鈴木さん:以前から「きれいめなファッションスタイルを好む女性が大勢訪れる商業施設になかなか挑戦できていない」という共通課題が社内にあり、各部署からの強いリクエストがありました。女性客に強い館にものちのち単独で出店できるようなブランドがあれば、いずれ必ず強みになると思ったんです。

藤井さん:そこで企画書を手に、ターゲットとなる取引先との商談に積極的に同行しました。どういう商材があったら強みになるのか、取引先のニーズと、社内各部署のさまざまな意見を聞きながら、ブランドの企画書を徐々にブラッシュアップしていったんです。

形になるまで約1年。重視したのは“ほどよい女らしさ”と“値ごろ感”

『ザ ヤーン フリークス ストア』2024春夏キャンペーンビジュアル

ーーそうして誕生したのが『ザ ヤーン フリークスストア』なんですね。ブランドの核となるコンセプトは何ですか?

藤井さん:『フリークス ストア』らしさです。アメカジを主軸としたメンズライクな視点やヴィンテージ風のムードを意識しつつ、“手づくりのものに宿る独特の温かみ”といったクラフツマンシップをキーワードとしています。

ーーなぜ“Yarn.(紡ぐ)”というワードをブランド名に採用したのですか?

鈴木さん:クラフト感・ヴィンテージ感・ものづくりへの真摯な姿勢といった、私たちが大切にしたいコンセプトとマッチしやすいと思い、チームみんなでブレストした中からしっくりきた単語をピックアップしました。

ーー“親しみやすい女性がターゲット”とありますが、具体的にはどんな女性像ですか?

藤井さん:ほかの誰かを意識して他人のために装うのではなく、あくまで自分のためにおしゃれをする方。“自分のよさを引き出すために、着る服を自ら選びとる”ような女性に着ていただきたいと思いました。お客さまにはよく“『フリークス ストア』の服は同性ウケがよい”と褒めていただきますが、おそらくブランドの個性が媚びないムードに直結し、結果として異性にも同性にも好感度を持っていただけるのではないかと思っていて、そこが『ザ ヤーン フリークス ストア』最大の強みにできるのではないかと考えました。

『ザ ヤーン フリークスストア』2024秋冬キャンペーンビジュアル

鈴木さん:デコルテや背中がグッと開いていたり、ちょっとした肌みせディテール多く取り入れて、女っぽさを忘れず、いい塩梅(あんばい)になるようなデザインに仕上げています。

ーーカットワークレースや天然素材などをふんだんに使用しているわりに、お値段が手頃なのもとても魅力的です。

鈴木さん:上代の値ごろ感は特に重視しているポイントです。私たちの世代は、美容・衣食住・子育てなど、ファッション以外にもお金をかけるべき分野を多く抱えながら生活しています。でも、あまりに安いと質への不安が発生するので、“安心感があり、お得感もある”といういい塩梅の価格設定ができるよう、努力しています。

ピンチは即、メンバーに共有。当面の目標は「社内にファンを増やす」

ターゲットとなる商業施設への商談に積極的に同行し『ザ ヤーン フリークス ストア』が目指すべき姿の解像度を上げていったと語る藤井さん

ーー2024年4月にローンチし、10月に初の秋冬コレクションがリリースされたばかり。半年間の手応えはいかがですか?

藤井さん:既存のお客さまからは、期待以上に好反応をいただいています。でも、さらに新規の方に来ていただくにはやっぱり知名度を上げないといけないのですが、本当に難しいんですよね……!

ーー藤井さんがInstagramでマメに発信したり、鈴木さんが日々のリース業務で積極的に貸し出しラインナップに差し込んだりなど、SNSやメディアへの露出を地道に増やしていかないとですね。

鈴木さん:そこと並行しつつ、まずは“社内にファンを増やす”ことを第1の目標に据えています。こういう新企画は、まず社内に浸透しなければ、その先にいるお客さまにも伝わっていきませんから。

『ザ ヤーン フリークスストア』2024秋冬キャンペーンビジュアル

藤井さん:私たちと同世代の女性スタッフを中心に、全国各地から強化メンバーをピックアップしています。都心の店舗の子も、アウトレットの子もいます。皆、主軸の業務を担いながら兼業するかたちでプロジェクトに参加してもらっています。

鈴木さん:ブランドを育てていくには、何よりもショップスタッフの協力が不可欠なんです。「お店のどこにどうやって置いたらお客さまに見ていただけるかな」とか「このお客さまにお似合いになるだろうから、入荷連絡してみよう」など、店頭での販促プランはすべて彼女たちが考えているので、そこにうまく混ぜてもらえるよう、働きかけています。

ーー同世代どうしが、同世代のお客さまのために楽しみながら提案できる服づくりをしているんですね。

鈴木さん:チームメンバーの年齢が近いので、問題が発生しても即チームメンバーに共有して相談できる気楽さがあるんです。「こんなこと言われた! どうしよう」的な感じでマメに連絡を取りあいながら前に進んでいます。

藤井さん:ミスマッチを感じて退職していく同期が多かった。全国で働いている仲間たちが自信を持ってお客さまに提案できるアイテムを作れるよう、このブランドを育てていきたいです。

インタビュー後記:ビジネスの基本を踏襲する人が最終的に大成する

鈴木さんが担うPR や藤井さんが務めるMDなどは、アパレル企業の花形的キラキラ人気ポジションととらえられがち。SNS発信に長け、大勢のフォロワーを得てインフルエンサーとして活躍する方も大勢いますが、最終的に生き残るのは、顧客や取引先と真摯に向き合い、そのニーズに応えるにはどうすべきかを考え、似合う商材やサービスを用意して適切なタイミングで提供できる人です。

鈴木さんも藤井さんも、現場で直面する顧客や取引先のニーズに加え、働く中で自身が日々感じる“モヤモヤ”にとても敏感。その“モヤモヤ”を取り払い、長く楽しく働き続けるために、売り場や商談といった現場に繰り返し積極的に立ち会い、学び、思いを同じくする仲間を作り、チームを結成して課題に取り組んでいます。そうしたきわめて基本的なビジネスプロセスを踏襲しながら地道に社内交渉を続け、少しずつ形にしていく姿勢をとても頼もしく思いました。彼女たちがターゲットとする30代女性マーケットでは熾烈なパイの奪い合いが繰り広げられていますが、負けずに冷静に自身の意思を貫いて、ブランドを大きく育てていってほしいです(O)。

Photo:Haruka Saito Text & Edit:OKISHIMAGAZINE