森ガールを中心に大人気を博したデザイナー野口アヤさんが手がけるアートギャラリーと新ブランドとは?
00〜10年代のファッションの変遷を振り返りつつ、野口さんが手掛けたブランドヒストリーと、現在のものづくりにかける思いを伺いました。

00年代、ナチュラルでリラクシーなスタイルを牽引

画像: 野口さんの長年の活動拠点となっている築100年を超える日本家屋。現在はアートギャラリーになっていて、大きなフィックス窓には展示会ごとに様々なモチーフが描かれる。

野口さんの長年の活動拠点となっている築100年を超える日本家屋。現在はアートギャラリーになっていて、大きなフィックス窓には展示会ごとに様々なモチーフが描かれる。

2000年代の森ガールブームを牽引していたブランドのひとつが、代官山にあったショップ【Balcony】でした。デザイナーの野口アヤさんは現在そのブティックだった場所でギャラリーを運営しながら新たにファッションブランド【ayanoguchiaya】をスタートし、今年で6年目を迎えます。

画像: 展示会ではコラボレーションしたアーティストの作品もディスプレイ。

展示会ではコラボレーションしたアーティストの作品もディスプレイ。

「武蔵美では恩師の小池一子先生から、アートとファッションの関係についての考え方にとても影響受けました。卒業後、いくつかのメゾンでデザイナーの経験を積んで30歳で独立したのがちょうど2000年。東京ガールズブランドブームの波に乗って、雑誌だと『Olive』や創刊したばかりの『Sweet』でよく取り上げてもらってました。2000年代前半はすごく忙しくて、だんだんオフィスが手狭になって物件を探していた時に、たまたま代官山の不動産屋さんで当時で築80年だったこの日本家屋の物件情報を見つけて、すぐに契約したんです。巡り合わせですね。そこから1年弱で改装して2004年に【Balcony】をオープンし、オリジナルブランドの【Balcony and Bed】を始めました」

画像: 渋谷駅と代官山駅、恵比寿駅の中間地点に位置する『SISON GALLERy』。1階がアートギャラリー、2階が野口さんと夫のチダコウイチさんのアトリエになっている。

渋谷駅と代官山駅、恵比寿駅の中間地点に位置する『SISON GALLERy』。1階がアートギャラリー、2階が野口さんと夫のチダコウイチさんのアトリエになっている。

「ブランドのネーミングはこの建物の2階にある広いバルコニーが由来。若い頃から古着が好きで、ヴィンテージマンションに住んでいたりしてて『古いものを大切に未来へと繋いでいきたい』という思いが常にあって。この建物そのものが、ブランドのコンセプトだったんですよね」
【Balcony and Bed】は野口さんのヴィンテージへの想いが色濃く投影されていたブランド。当時はまだあまり多くなかったオーガニックコットンやリネンを使ったり、お店ではオーガニックコスメを扱うなど、サステナブルな取り組みをいち早く行なっていました。

画像: 2階のアトリエにはコラボしたアーティストの作品が並ぶ。ここで服づくりから事務作業、打ち合わせなどを行い、1日の大半を過ごすそう。

2階のアトリエにはコラボしたアーティストの作品が並ぶ。ここで服づくりから事務作業、打ち合わせなどを行い、1日の大半を過ごすそう。

「中でも当時一番人気だったのはデニムとレースもの。レースはパリの蚤の市で赤ちゃん用のレースを買ってきて、それをベースにオリジナルを作ったり、コレクションしていたアンティークのレースをもとに生地を作ったりしてました。デニムもボロボロのダメージデニムとかパッチワークデニムとか、ダメージ部分にレースを重ねたりとか、色々やりましたね。【Balcony and Bed】は青文字系の雑誌でもたくさん取材してもらいました。青文字系の中では『SEDA』に特によく取り上げてもらった記憶があります」

シンプル化していく10年代、【Salon de Balcony】をスタート

画像: 新作展示会ではチダさんが作った陶器をノベルティとしてプレゼントしている。今シーズンは珊瑚のようなペンダントトップ。

新作展示会ではチダさんが作った陶器をノベルティとしてプレゼントしている。今シーズンは珊瑚のようなペンダントトップ。

森ガールブームは終息しても、【Balcony and Bed】の人気は不動のものとなり、大人も楽しめる【Salon de Balcony】ブランドも誕生。徐々にそちらがメインになっていき、ファッションの世界でひとつの時代を作ってきました。

アートギャラリーのオープン、そして脱トレンドを果たした服づくりへ

画像: 今回コラボレーションしたアーティストの吉野マオさんの作品。吉野さんはファッションブランドや飲食店、公共施設などへの作品の提供を精力的に行っている。

今回コラボレーションしたアーティストの吉野マオさんの作品。吉野さんはファッションブランドや飲食店、公共施設などへの作品の提供を精力的に行っている。

その後、【Salon de Balcony】は2017年に終了し、本店にしていた代官山の古民家はアートギャラリーへと変貌を果たします。
「ファッションと同じくらいアートも好きで、美大で勉強もしてたから、ずっとアートギャラリーをやりたいという気持ちがあって、だんだんその想いが強くなったんです。それで【Balcony】を辞めて、この建物の1階をアートギャラリー、2階をオフィスへと改装し、2017年に『SISON GALLERy』をオープンしました。でも20年以上服作りをしていたものだから、ブランドを辞めて一年後にはまた服を作りたくなってしまって(笑)。やれる範囲、かつ、やりたい範囲で自分のものづくりをすることにしたんです」

画像: 【ayanoguchiaya】定番のワンピース、パンツ、コート。ワンピースは前後どちらでも楽しめるデザイン。今シーズンはラベンダーやキャメルなど明るいニュアンスカラーが並ぶ。

【ayanoguchiaya】定番のワンピース、パンツ、コート。ワンピースは前後どちらでも楽しめるデザイン。今シーズンはラベンダーやキャメルなど明るいニュアンスカラーが並ぶ。

野口さんの現在のブランド【ayanoguchiaya】は、型数こそ少ないけれど、一着一着への向き合い方がとても濃厚。【Balcony】のエッセンスはありつつも、装飾性は削ぎ落とされたぶん、工程へこだわり、たくさん作れないからこそ、販売方法は展示会と期間を絞ったオンラインでの受注のみと非常にミニマムです。

「【ayanoguchiaya】はいわゆるセミオーダー式なんですが、お客様の希望や体型に合わせてカスタム対応もしていて、その人のためだけの服を作っている感覚です。なるべく自分で、目の届く範囲でやっているからできることなんですよね。そうすることで、気持ちや手間をどのくらい込めたものなのか伝わりやすいし、手に取る人にも絶対に喜んでもらえる。私が作っているのは服だけど、アートも同じことかな、と思っています。アートも一点ものですもんね。それもすごく手の込んだ。アーティストとも共感し合って、ほぼ毎回コラボレーションしています。今年の春夏の新作では吉野マオさんとコラボしてて、私が初めて購入した吉野さんの作品を生地に使って【ayanoguchiaya】で毎シーズン出している型のスカートやパンツを作りました。展示会でも大好評で、特にパンツは一番オーダーいただいたんですよ」

画像: こちらは大人気のコラボテキスタイルシリーズ。

こちらは大人気のコラボテキスタイルシリーズ。

画像: コラボシリーズの赤いフリルを重ねたスカートは裏返して赤いスカートとしても着用可能。2way、3wayで楽しめるデザインが多いのも、長く着るための飽きさせない工夫。

コラボシリーズの赤いフリルを重ねたスカートは裏返して赤いスカートとしても着用可能。2way、3wayで楽しめるデザインが多いのも、長く着るための飽きさせない工夫。

「洋服が消費されて捨てられて、新しいシーズンに新作が出て、というサイクルから離れたかったんですよね。だけど、それって洋服を作ることと矛盾してる。やっぱり新しい何かを作らないと買ってもらえないし、買うなら目新しさを求めてると思うし。そのバランスがすごく難しい。今はトレンドではなく、アートとのコラボで新鮮さを表現できたら、と思っています。洋服もものづくりの一環だから、洋服もアートも陶芸も同じ壇上で考えたいんですよね。【ayanoguchiaya】の新作展示会で新しさを表現する柱にしているのは、アーティストの作品を使ったコラボテキスタイルと、それに合わせて定番アイテムを色や素材で変化をつけることの2本。このギャラリーの建物のように、長く大切に愛される服づくりが今の私のテーマです」

4月12日、13日に石井佳苗さんらと衣食酒住イベントを開催

『SISON GALLERy』では「古いものを大切に未来へと繋いでいきたい」という野口さんの思いに共感するクリエイターと一緒に、不定期でマーケットイベントを行っています。今年は「衣食住酒」
がテーマのフリーマーケットを開催予定。
インテリアアイテムや器、服やアクセサリーなどのセカンドハンドを選びながら、ナチュラルワインとお寿司でひと休み、と春の休日をゆっくりお得に楽しめる、まさに「衣食住酒」な内容。
「衣」を担当するのはもちろん野口さん。「食」は1日目を金工作家で菓子制作家の川地あや香さん、2日目を寿司屋で服飾作家の井出雄士さんが担当。
「住」は大人気のインテリアスタイリスト石井佳苗 さん、「酒」は『Wine shop bulbul』オーナーの鈴木純子さんが担当します。
「仕事柄増えに増えたファッションアイテムを出品します。今回はかなりたくさんになりそう。石井さんも、5年ぶりに倉庫大放出するとあって、インテリアアイテムから復職系まで、思い切って出品してくれるそう。ショッピングバッグや梱包材をお持ちになってご来場ください」

画像: 4月12日、13日に石井佳苗さんらと衣食酒住イベントを開催

Flea market “衣食住酒”
開催日:2025年4月12日(土) 13日(日)
時間:11:00〜18:00
場所:SISON GALLERy 東京都渋谷区猿楽町3-18

Photograph/YUUMI HOSOYA
Text/ERI NISHIMURA

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