世話を焼く母
実家でひとり暮らしをしている母には、同じ町内に住む兄ーー私にとっての叔父がいました。叔父は気難しい性格で、何かにつけて叱ることが多く冗談も通じないタイプ。それでも母は病院への送迎や買い物を引き受け、何かと世話を焼いていました。
時折、母から「今日もキツイ言葉を言われちゃった……」と愚痴を聞くことも。それでも「兄妹だからね」と笑う母を、私は少し誇らしく思っていました。
続く悪夢
そんな母が、持病の悪化で入院することになりました。幸い、入院先は私の家の近くだったため、通院のサポートは私が担当することに。叔父の世話は、地元の訪問介護サービスにお願いしました。
ある日、お見舞いに行くと、母が青ざめた顔で言いました。「ここ数日、叔父さんの夢を見るの。怒った顔で追いかけてくるのよ。すごくリアルで怖いの……」その声は震えていて、冗談を言っているようには見えません。私はお守りを渡し、「気にしすぎないでね」と励ましました。
突然の知らせ
それから数日後、地元の介護スタッフから電話が入りました。「茂夫さん(仮名・叔父)が倒れました。救急搬送されています」急いで地元の病院へ向かいましたが、叔父はすでに息を引き取った後。あまりに急な出来事でした。
遠方に散らばっていた私たち兄弟は、母の代わりに葬儀を取り仕切り無事に済ませることができました。叔父に対しては色々な思いがありましたが、それでも家族としてできる限りのことはしたつもりです。
叔父の部屋で見たもの
葬儀の後、遺品整理のため、私たち兄弟は叔父の家へ。玄関を開けると、独特な湿った空気が流れてきました。散らかった部屋を進み、リビングに足を踏み入れた瞬間ーー言葉を失いました。
テーブルの上には母の写真。そして、その写真を囲むようにろうそくが何本も並べられていました。まるで何かの儀式のような光景。私たちは誰も声を出せませんでした。
知られざる想い
母が入院してから見ていた“叔父に追われる夢”。それが偶然とは思えず、背筋が冷たくなりました。叔父が何を思っていたのかは、もう分かりません。母が入院して、自分だけ置き去りにされた寂しさだったのかもしれない……。ただひとつ確かなのは、母が退院してから夢を見ることは二度となかったということ。
あの日、叔父の部屋で見た光景は、今でも私たち兄弟の間で決して話題にしてはいけない出来事です。
【体験者:40代・女性パート、回答時期:2025年10月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:hiroko.S
4人を育てるママライター。20年以上、接客業に従事。離婚→シングルマザーからの再婚を経験し、ステップファミリーを築く。その経験を生かして、女性の人生の力になりたいと、ライター活動を開始。現在は、同業者や同世代の女性などにインタビューし、リアルな声を日々収集。接客業にまつわる話・結婚離婚、恋愛、スピリチュアルをテーマにコラムを執筆中。

