静かな本屋での緊張
長女が1歳になったばかりの頃、私は本屋へ行きました。本屋は静かな場所なので、泣いたり騒いだりしたら迷惑になる。その思いが頭にあり、機嫌のいいタイミングを見計らって入店しました。
最初はベビーカーに座っていましたが、すぐにぐずり始めたため抱っこへ変更。抱っこでも落ち着かず、今度は「歩きたい」と身をよじり始めました。「とにかく早く選んで帰ろう……」そう焦っていました。
絵本棚での“危ない瞬間”
絵本コーナーに着くと、娘は嬉しそうに棚を指さし、絵本の表紙を引っ張ろうとしました。しかしその棚は本がぎっしり詰まっていて、強く引いたら両サイドの本が落ちてきそうな状態。「これは危ない」と感じ、私は慌てて手を引いて止めました。
するとその瞬間、娘は大きく口を開けて号泣。静かな店内に響き渡る泣き声。周囲の視線が集まり、私は冷や汗でいっぱいになりました。
あの日の“救いの手”
「お願い、静かにしようね」と小さく声をかけても、娘はますます泣き止みません。顔が熱くなるのを感じながらどうしようか迷っていると、年配の女性がふっと近づいてきました。「大丈夫よ。元気な証拠よ」その一言が、胸にスッと入ってきました。
さらに店員さんまで来てくれて、「よかったら使ってくださいね」と紙と可愛いシールを渡してくれました。娘はシールに夢中になり、嘘みたいに泣き止みました。店内に静けさが戻り、私の心にも、そっと優しい風が吹き込んだようでした。
今も胸に残る、あの日の温度
あのとき私は、「迷惑をかけないようにしなきゃ」と、いつのまにか完璧を求めすぎていました。けれど、あの女性の言葉と店員さんの優しさによって、心がふっと軽くなったのです。
今では子どもが3人になりました。慌ただしい毎日ですが、あの日の出来事を思い出すたびに思います。ーー次は私が、あの優しさを誰かに返したい。あの日の救いは、今でも私の中で静かに息づいています。
【体験者:30代・主婦、回答時期:2025年4月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:北山 奈緒
企業で経理・総務として勤務。育休をきっかけに、女性のライフステージと社会生活のバランスに興味関心を持ち、ライター活動を開始。スポーツ、育児、ライフスタイルが得意テーマ。

